睡眠時無呼吸症
「最近いびきがひどい」「日中の眠気が取れない」、、、などの症状が特徴的な疾患の一つに睡眠時無呼吸症候群(SAS)があります。
睡眠中に呼吸が繰り返し止まるこの病気は、知らぬ間に進行し、高血圧・心臓病・脳卒中・糖尿病など重篤な合併症の温床となります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?
よくある症状と特徴
SAS(Sleep Apnea Syndrome)は 「睡眠 1 時間あたりの無呼吸・低呼吸の合計回数(AHI)が5回以上」 で定義される睡眠呼吸障害です。
- 無呼吸:10秒以上の気流停止
- 低呼吸:10秒以上の気流低下(換気量50%以下)に加え、酸素飽和度3〜4%低下または覚醒反応を伴う場合
代表的症状は
- 大きないびき・呼吸停止を家族に指摘される
- 日中の強い眠気・集中力低下
- 起床時の頭痛・口渇・倦怠感
日本での有病率
中等度以上(AHI >=15)のOSAは人口の約5~6%(男性9~10%、女性3~4%)と推定されています。女性は閉経後に増加し、小児(アデノイド肥大)でも有病率が上昇します。
発症メカニズムと 3 タイプ
| タイプ | 主な原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 閉塞性(OSA) | 舌根沈下・扁桃肥大・肥満・小顎などで気道が物理的に閉塞 | 全 SAS の約 90% |
| 中枢性(CSA) | 脳幹の呼吸中枢の指令低下 | いびきが軽微/無い例も |
| 混合型 | OSA と CSA が同一患者に混在 | CPAP 導入後に CSA 成分が顕在化することも |
睡眠時無呼吸症候群のリスク因子
- 肥満(BMI >=25/頸囲 男性 40 cm・女性 35 cm 以上)
- 年齢(男性 40 代以降、女性は閉経後)
- 顎が小さい・下顎後退、扁桃・アデノイド肥大、鼻中隔弯曲
- アルコール・睡眠薬・筋弛緩薬の就寝前使用
- 喫煙/家族歴/アレルギー性鼻炎による鼻閉
睡眠時無呼吸症候群の症状について
簡易セルフチェックリスト
- 睡眠中の 大音量いびき
- 呼吸停止
- 夜間頻尿・窒息感による中途覚醒
- 起床時頭痛
- 口渇
- 喉の痛み
- 日中の耐え難い眠気(運転中の瞬間的居眠り)
- うつ傾向
- 記憶力低下
- 性格変化
小児の場合
- いびき
- 口呼吸
- 夜尿
- 多動
- 学業成績低下
- 発達遅延
- 成長ホルモン分泌障害による低身長リスク
睡眠時無呼吸症候群の放置による全身リスク
- 高血圧/耐糖能異常/脂質異常症
- 不整脈、心不全、心筋梗塞など心疾患
- 脳卒中、一過性脳虚血発作
- 認知症リスク増加、重症うつ
- 交通事故リスク 2~7 倍(うとうと運転)
耳鼻科で行う睡眠時無呼吸症候群の検査
- 在宅簡易検査
- パルスオキシメータ+鼻気流+体位センサー
- 終夜睡眠ポリグラフ検査
- 脳波・筋電図・眼球運動も計測
- 簡易検査で AHI>15 または合併症ハイリスク例で実施
- 耳鼻咽喉科的評価
- 内視鏡で鼻腔・咽頭・喉頭を観察し閉塞部位を同定
- アレルギー検査、CT で鼻中隔・下鼻甲介の形態確認
重症度分類(成人)
| AHI(/h) | 病型 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 5~14 | 軽症 | 生活指導+マウスピース |
| 15~29 | 中等症 | CPAP 第一選択、必要に応じマウスピース |
| >=30 | 重症 | CPAP+生活改善、外科治療検討 |
※ここで示した分類と治療法は一般的な目安です。実際の治療方針は、症状や生活状況を踏まえて医師が総合的に判断します。
睡眠時無呼吸症候群に対する治療法
CPAP 療法
眠っている間に専用の鼻マスクからやわらかな空気を送り込み、気道がふさがらないようにする治療法です。中等症以上の患者さんでは9割以上で症状が改善し、高血圧や心臓病などの合併症リスクも大きく減らせます。
口腔内装置(OA)
下あごを少し前に出した位置で固定することで、舌がのどの奥に落ち込むのを防ぎ、気道を広げる治療です。軽症から中等症の方や、CPAPが合わない方、また海外出張や旅行中の代替手段としても有効です。
(当院では対応しておりません。)
手術療法
- 鼻中隔矯正術・下鼻甲介粘膜下骨切除:鼻閉改善
- 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP):口蓋垂・軟口蓋切除
- 小児では アデノイド・口蓋扁桃摘出 が第一選択
(当院では対応しておりません。)
生活習慣改善
| 施策 | 具体的ポイント |
|---|---|
| 体重管理 | BMI 25 未満 を目標に 5~10%減量から開始します。 |
| 寝姿勢 | 横向きに寝たり、枕などで頭を少し(約10°)高くして寝ることで、のどの通り道(気道)が広がり、呼吸がしやすくなる場合があります。 |
| 禁煙・節酒 | 就寝前 3 時間の飲酒を避けます。 |
| 鼻疾患治療 | アレルギー性鼻炎にはステロイド点鼻・舌下免疫療法が推奨されます。 |
睡眠時無呼吸症候群 セルフチェック(10 項目)
下記 10 項目のうち 「はい」 に該当する数をカウントし、判定の目安としてください。
※あくまで簡易スクリーニングです。
結果にかかわらず気になる症状がある場合は専門医へご相談ください。
| # | チェック項目 | はい/いいえ |
|---|---|---|
| 1 | 家族や同僚から「いびきがうるさい」「寝ているときに呼吸が止まっている」と指摘されたことがある | |
| 2 | 夜中に 窒息感 や 息苦しさ で目が覚めることがある/起床時に 喉がヒリヒリ・口がカラカラ | |
| 3 | 就寝中 2 回以上トイレに起きる(夜間頻尿) | |
| 4 | 朝起きても 頭痛 や 重だるさ が続き、「熟睡感がない」と感じる | |
| 5 | 日中、会議・デスクワーク・運転中など静かな状況で 居眠り しそうになる/実際に寝てしまう | |
| 6 | BMI が 25 以上 または 首回り(のどぼとけ周囲)男性 40 cm・女性 35 cm 以上 | |
| 7 | 高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動 のいずれかを治療中、または家族歴がある | |
| 8 | アルコール(就寝3時間以内)や睡眠薬をよく服用する/喫煙習慣がある | |
| 9 | 顎が小さい/扁桃肥大・アレルギー性鼻炎などで鼻づまりが慢性的にある | |
| 10 | Epworth 眠気スコア を自己評価すると 10 点以上(下表参照) |
Epworth 眠気スコア(ESS)簡易版
「下記 8 シーンで居眠りしてしまう可能性」を 0~3 点で評価し合計。
10 点以上は日中過眠の指標となります。
| 状況 | 0 点:なし | 1 点:まれに | 2 点:ときどき | 3 点:頻繁 |
|---|---|---|---|---|
| ① 座って読書中 | ||||
| ② テレビを見ているとき | ||||
| ③ 人混みで静かに座っているとき(会議・劇場) | ||||
| ④ 車に同乗し 1 時間静かに座っているとき | ||||
| ⑤ 午後に横になって休憩するとき | ||||
| ⑥ 座って会話しているとき | ||||
| ⑦ 昼食後(飲酒なし)に静かに座っているとき | ||||
| ⑧ 車を運転中、信号待ちなど短時間停止時 |
判定の目安
- 「はい」0~2 個 + ESS<10 点
→ SAS の可能性は比較的低いものの、生活習慣(体重・飲酒・寝姿勢)を見直しましょう。 - 「はい」3~4 個 または ESS 10 点以上
→ 軽症~中等症の疑い。
自宅簡易検査の受検を推奨します。
耳鼻科で相談を。 - 「はい」5 個以上 または 呼吸停止を指摘+強い日中眠気/生活習慣病合併
→ 中等症以上のリスクが高いため、早期に専門医で検査を。
放置すると心血管イベントが増加します。
早期診断により 生活の質(QOL)と予後 が大幅に改善します。
睡眠時無呼吸症候群を改善する生活習慣は?
良質な睡眠のために生活習慣を整えることが大切です。
| 就寝・起床時刻の固定 | 平日・休日を問わず同じ時刻に寝起きする |
|---|---|
| 寝室環境 | 静かで暗く、快適な温湿度を保つ |
| ブルーライト回避 | 就寝1時間前からスマホやPCの使用を控える |
| 飲酒・喫煙・カフェイン | 就寝前の摂取を避ける/喫煙習慣を見直す |
| 入浴・リラックス | 寝る90分前の入浴や深呼吸で副交感神経を優位に |
| 日中の運動 | 午後早めの軽い運動で夜間の眠りを促進 |
まとめ|SAS を疑ったらまず検査から
睡眠時無呼吸症候群は「ただのいびき」で片付けられがちですが、心血管疾患リスクを 2~3 倍に高める全身病です。
眠気・いびきが気になる方はお気軽にご相談ください。
快適な睡眠を取り戻し、将来の健康リスクを一緒に減らしましょう。
よくある質問(FAQ)
「いびき=必ず SAS?」
大きないびきに加え、睡眠中の呼吸停止がある場合は要検査です。
いびきのみでも肥満・高血圧・日中の強い眠気があれば簡易検査を推奨します。
CPAP は一生続けるの?
気道の解剖学的閉塞が改善しない限り継続が原則です。
ただし、大幅な減量や手術でAHIが正常化すれば中止できる場合もあります。
子どもへの影響は?
発達遅延・学習障害・夜尿の原因となる可能性があります。
アデノイド・扁桃肥大によるSASは、耳鼻咽喉科での早期評価と必要に応じた手術が推奨されます。
横向き睡眠や枕で治る?
軽症例でいびき・ AHI が 30%以上減少するとの報告もありますが、確実な改善には医療介入が必要です。
女性の SAS は少ない?
閉経前は少ない傾向ですが、閉経後に有病率が上昇します。
むくみや抑うつ症状主体で見逃されやすく、注意が必要です。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
- 日本睡眠学会 睡眠医療ガイドライン 2020
- American Academy of Sleep Medicine. Clinical Practice Guideline for Diagnostic Testing for Obstructive Sleep Apnea J Clin Sleep Med. 2017
- Gottlieb DJ, Punjabi NM. "Obstructive sleep apnea and cardiovascular disease." Circulation 2020
