後鼻漏
「喉に鼻水が流れて不快」「痰が絡むけれど出ない」
そんな症状は後鼻漏(こうびろう)と呼ばれます。慢性副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎・上咽頭炎などが背景に潜み、放置すると長引く咳や声枯れ、不眠の原因になります。
後鼻漏とは?
鼻腔や副鼻腔で産生された粘液(鼻水)が上咽頭→中咽頭へ過剰に流下し、喉に張り付く・痰が絡む・咳払いが止まらない。これが後鼻漏です。正常でも 1 日 1 L 近い鼻水を無意識に飲み込んでいますが、
- 産生過多
- 粘性亢進
- 排出経路障害
のいずれかが加わると自覚症状が出現します。
後鼻漏の原因:なぜ鼻水が喉に回るのか?
主な原因疾患 | メカニズム | 代表的所見・症状 |
---|---|---|
副鼻腔炎(急性/慢性) | 膿性分泌物が後鼻孔から滴下 | 黄〜緑色・粘稠、嗅覚低下 |
アレルギー性鼻炎 | 好酸球性炎症で水様分泌亢進 | 透明水様、くしゃみ発作、鼻閉 |
慢性上咽頭炎 | 粘膜の慢性刺激・リンパ濾胞肥大 | 肉芽状粘膜、EATで易出血 |
鼻中隔彎曲・鼻茸 | 機械的閉塞で粘液停滞 | ポリープ・強彎曲を内視鏡で確認 |
GERD(逆流性食道炎) | 胃酸逆流が上咽頭を刺激 | 胸やけ・呑酸、夜間咳悪化 |
乾燥環境・喫煙・多量飲酒も粘液を粘稠化し症状を助長します。
後鼻漏の症状と生活への影響
- 喉に粘つく塊感、しつこい咳払い
- 起床時の イガイガ・痰が絡む感じ
- 声枯れ、口臭、味覚低下
- 集中力低下・不眠(就寝時咳)
後鼻漏の鑑別と検査
- 問診・視診:症状経過・季節性・既往歴
- 鼻咽腔ファイバースコピー:粘液の性状・滴下部位・粘膜炎症を直視
- 副鼻腔 CT:副鼻腔陰影・骨隔壁肥厚・ポリープ確認
(当院では施行しておりません) - アレルギー検査
- 喉頭ファイバー・胃内視鏡:GERD/咽喉頭逆流の合併確認
原因別 後鼻漏の治療
原因 | 薬物療法 | 手技/処置 | 外科 |
---|---|---|---|
副鼻腔炎 | 抗菌薬・マクロライド少量長期・去痰薬・鼻噴霧ステロイド | ネブライザー | 内視鏡下副鼻腔手術 |
アレルギー | 抗ヒスタミン・ロイコトリエン拮抗薬・点鼻ステロイド | 舌下免疫療法 | – |
上咽頭炎 | 消炎酵素薬・漢方(麦門冬湯・半夏厚朴湯) | EAT(塩化亜鉛擦過) | – |
構造異常 | – | – | 鼻中隔矯正・鼻茸切除 |
GERD | PPI/P-CAB・生活指導 | – | – |
後鼻漏のセルフケア・予防
- 鼻うがい:37 ℃ 等張食塩水を 200 mL ずつ片鼻から注入
- 睡眠姿勢:横向き就寝
- アレルゲン対策:マスク・眼鏡、寝具カバー高密度生地
- 生活習慣:禁煙・節酒・香辛料控えめ
受診の目安(チェックリスト)
該当 | チェック項目 |
症状が 2 週間以上 継続または増悪傾向 | |
黄色~緑色で悪臭のある鼻水/痰が続く | |
市販薬・鼻うがいを 1 週間試しても改善しない | |
夜間咳・喘鳴で 睡眠障害 がある | |
声枯れ・嗅覚低下・発熱を反復 | |
過去に副鼻腔手術歴/鼻ポリープ指摘歴 | |
GERD 治療中でも咽喉違和感が残る |
1 つでも当てはまれば耳鼻咽喉科受診を推奨されます。
適切な検査で原因を可視化し、適切な治療につなげます。
まとめ
後鼻漏は鼻や副鼻腔で作られた粘液が過剰・粘稠化して喉へ流れ込み、痰絡み・咳払い・声枯れなど多彩な不快症状を引き起こします。副鼻腔炎・アレルギー・上咽頭炎・GERD など原因は多岐にわたり、専門的検査での鑑別が不可欠となります。
早期の治療開始で睡眠や仕事の質を大幅に向上させましょう。
よくある質問(Q&A)
1. 鼻水が喉に落ちる理由は?
鼻・副鼻腔で産生された粘液が後方へ流れ過ぎるため。炎症やアレルギーで産生過多・粘性亢進が起こる。
2. 風邪との違いは?
後鼻漏は2週間以上持続し季節変動や慢性炎症が背景。風邪は 7~10 日で軽快。
3. 痰が絡む=必ず後鼻漏?
高粘度痰・咽頭異物感は典型症状。耳鼻科受診で原因鑑別を。
4. 何科を受診?
耳鼻咽喉科。上咽頭~副鼻腔を内視鏡と CT で評価できる。
5. 鼻うがいは安全?
37℃ 等張食塩水を用いれば刺激が少なく有効。痛みが強い場合は医師へ相談。
6. 治らないときの次の手段は?
原因に応じ EAT、長期マクロライド少量療法、鼻内手術を検討。
7. 透明な鼻水でも後鼻漏?
アレルギー性鼻炎などで透明水様鼻漏が喉に流れる場合あり。
8. 市販薬で十分?
一時的緩和は可。しかし 2 週間以上続くなら専門治療が推奨。
参考文献
- 日本耳鼻咽喉科学会『慢性副鼻腔炎 診療ガイドライン 2020』
- 日本アレルギー学会『アレルギー性鼻炎 診療ガイドライン 2022』
- Shoji K, et al. “Clinical features and treatment outcomes of patients with postnasal drip.” Auris Nasus Larynx 2020
- 岡本美孝ほか『上咽頭擦過治療マニュアル』医学書院 2020