耳垢
耳垢とは何か?
耳垢(じこう)は、外耳道の 外側 1/3(軟骨部) にある耳垢腺・皮脂腺から分泌される皮脂や汗、剥がれた角質細胞、外部から入り込んだホコリなどが混ざってできる物質です。鼓膜寄り 1/3(骨部)には分泌腺がないため、耳の奥で"新たに"耳垢が作られるわけではありません。
乾性耳垢と湿性耳垢
耳垢には、水分がほぼないサラサラの「乾性」と、しっとり粘り気のある「湿性」の2 タイプがあります。
乾性耳垢は粉状で自然に落ちやすく、掃除は入口を軽く拭うだけで十分です。一方、湿性は耳道に残りやすいため、イヤホンや補聴器を長時間使う人は滞留に注意が必要です。
耳垢のタイプは遺伝子(ABCC11)によってベースが決まります。
しかし実際の耳垢の質感は、気候・発汗・皮膚状態などの環境要因によって日々変化します。
耳垢の 3 つの重要な役割
異物の侵入を防ぐバリア機能
粘性のある耳垢は細菌・真菌やホコリが耳の奥に達するのを防ぎ、弱酸性環境で病原体の増殖を抑えます。
外耳道の皮膚を保護
皮脂膜として潤いを保持し、乾燥や掻破から外耳道皮膚を守ります。
自己浄化機能
外耳道上皮は鼓膜中央から外耳道口へ1日約0.05-0.1 mm移動し、耳垢も2-3 か月で自然排出されます。
顎を動かす咀嚼運動がこの移動を促進します。
耳垢が溜まりやすくなる原因
主因 | 詳細・機序 |
---|---|
耳掃除のしすぎ | 綿棒・耳かきで奥へ押し込み、自己浄化を阻害。 |
耳の形状 | 外耳道の狭窄・屈曲・骨棘で滞留。 |
加齢変化 | 皮脂量減少で耳垢硬化、上皮移動も緩徐化。 |
イヤホン・補聴器・耳栓 | 密閉で湿気↑ → 耳垢軟化→固着。夏季は特に注意。 |
耳垢腺の分泌異常 | アトピー・脂漏など慢性皮膚疾患で分泌亢進。 |
耳垢が引き起こす症状(耳垢栓塞)
- 耳の詰まり感・閉塞感
- 伝音難聴(音がこもる・テレビの音量が上がる)
- 耳鳴り、耳痛、かゆみ、外耳炎
鼓膜が見えないほど詰まると「耳垢栓塞」と診断され、医療的除去が必要です。
正しい耳掃除の方法
- 頻度:原則不要。どうしても気になる場合のみ。
- 範囲:綿棒で外耳道入口をそっと拭う程度。
- NG 行為:奥まで突く、金属耳かきで強くこする、水を勢いよく入れる。
- 入浴後ケア:タオルで耳介を拭き、綿棒で水分を吸い取る程度。
- 市販洗浄液・スプレー:鼓膜穿孔・慢性中耳炎患者は使用禁忌。疑わしい場合は使用前に医師へ相談。
耳鼻科での耳垢除去と受診の目安
受診を勧める状況 | 背景 |
---|---|
突然の聞こえづらさ・耳閉感 | 耳垢栓塞・外耳炎を除外 |
自宅ケアで改善しない痛み・かゆみ | 感染・湿疹の合併 |
乳幼児・高齢者の大量耳垢 | 視認困難・処置困難例 |
補聴器フィッティング前 | 音響特性確保 |
医師は耳鏡・内視鏡で確認し、鉗子・吸引・微温水洗浄で安全除去。
除去直後に聴力が戻ることが多く、症状解決が迅速です。
よくある質問(Q&A)
Q. 乳幼児の耳垢はどうする?
基本は放置で大丈夫です。入口に出てきた耳垢のみガーゼで拭いましょう。難聴や痛みがあれば耳鼻科へご相談ください。
Q. 耳垢の色が黒い/緑色だが?
黒色の場合は古い耳垢や血液酸化の可能性、緑色や悪臭のある場合は真菌・細菌感染を疑います。早めに耳鼻科を受診しましょう。
Q. イヤホンを毎日使うが対策は?
1 日 1 回は外耳道を乾燥させ、週数回はアルコール綿でイヤホンを清拭。長時間装着を避けるましょう。
Q. 湿型耳垢=体臭が強い?
湿型耳垢と腋臭体質は同じ ABCC11 に関連しますが、必ずしも体臭が強いわけではありません。
Q. 外耳道湿疹を繰り返す…どう防ぐ?
掻破・過剰掃除を避け、保湿剤やステロイド外用で皮膚バリアを整えることが再発予防になります。
Q. 市販の耳掃除カメラは安全?
鼓膜損傷や外耳道擦過の報告があり、医師の指導なく使用するのは推奨されません。
まとめ|耳垢の正しい知識で耳を健康に保とう
耳垢は異物防御・皮膚保護・自己浄化という重要な役割を担う生体バリアであり、耳掃除は基本的に不要です。
どうしても気になる場合は、外耳道の入口 5 mm 以内に見える耳垢をそっと拭き取る程度に留め、奥まで器具を差し込まないことが大切です。
耳垢栓塞による難聴や違和感は耳鼻科での除去により速やかに改善します。年齢・生活習慣で耳垢の状態は変わるため、気になる症状があれば早めに専門医へ相談しましょう。
参考文献
- 日本耳鼻咽喉科学会「耳垢栓塞の診療ガイドライン」
- American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery. Clinical Practice Guideline: Cerumen Impaction (2017)
- 日本耳科学会「耳の健康とケア」
- 厚生労働省「耳の健康管理と適切な耳掃除の指針」
- Sadanobu H. et al. "ABCC11 gene and cerumen type." Nature Genetics 2006
- J Otolaryngol Head Neck Surg 2023 "Update on Cerumen Impaction Management"
- Roland PS et al. "Clinical evaluation and treatment of cerumen impaction." Otolaryngol Clin N Am 2020