航空性中耳炎
航空性中耳炎の原因について
中耳は「耳管(じかん)」という管で鼻の奥(上咽頭)とつながっており、外部との気圧のバランスを調整しています。
飛行機が上昇・下降する際、周囲の気圧が急激に変化すると、耳管を通してその変化を補正しようとします。
ところが、風邪やアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎などで耳管がうまく開かなくなっていると、気圧の調整ができず中耳内に陰圧や陽圧がかかり、鼓膜が内側に引っ張られたり、場合によっては破れたりして痛みや出血を伴います。
航空性中耳炎の主な症状
航空性中耳炎の代表的な症状は以下の通りです:
- 耳の痛み(特に下降時に強くなる)
- 耳閉感(耳が詰まった感じ)
- 難聴
- 耳鳴り
- めまい
- 鼓膜からの出血(重症例)
多くは一時的な症状で、地上に戻り耳管の通気が回復すれば改善しますが、重症化すると中耳に炎症が残り、治療が必要になることもあります。
航空性中耳炎の治療法
軽症の場合は自然に治癒することが多いですが、以下のような治療が行われます:
鼻の通りを良くする治療
- 点鼻薬(血管収縮薬):耳管の入り口である鼻腔の粘膜を収縮させて、耳管の開通を助けます。
- 抗アレルギー薬:アレルギー性鼻炎がある場合に使用します。
耳の炎症に対する治療
- 消炎鎮痛剤:痛みや炎症を軽減させます。
- 抗生物質:中耳に感染がある場合に使用します。
耳管通気(通気処置)
必要に応じて耳鼻科で「耳管通気」を行い、空気を中耳に送り込んで圧を正常化させます。
鼓膜切開や鼓膜チューブ挿入(重症例)
鼓膜が破れるほどの高圧や強い炎症がある場合、一時的な鼓膜切開や換気チューブ挿入が必要なこともあります。
航空性中耳炎の予防と耳抜き対策|子どもや鼻炎持ちの方に
飛行機に乗る際、以下の対策で予防が可能です。
搭乗前
- 風邪や鼻炎の症状がある場合は無理に搭乗しない、または事前に耳鼻科で相談
- 点鼻薬の使用(搭乗30分前に使用が効果的)
離着陸時の工夫
- 飴をなめる、ガムを噛む
- こまめに嚥下運動(つばを飲む)をする
- バルサルバ法(鼻をつまんで軽く息を吐く)を行う
- 乳幼児の場合は授乳や哺乳瓶で吸わせることで耳抜き効果があります
航空性中耳炎のQ&A|子ども・鼓膜・予防法などを解説
Q. 子どもが毎回痛がるのですが、どうしたらいいですか?
耳管が未熟な乳幼児では特に起こりやすいです。
繰り返す場合は耳鼻科での事前評価と点鼻薬処方を検討しましょう。
Q. 鼓膜が破れることはありますか?
まれに急激な圧力で鼓膜穿孔を起こすことがあります。
強い痛みや出血があれば早めに受診してください。
Q. 飛行機以外でもなりますか?
スキューバダイビングや高所登山など、急激な気圧変化を伴う環境でも起こることがあります。
Q. 耳抜きが苦手でも対策できますか?
ガムを噛む、あくびをする、こまめに水分をとるなどの方法でも耳抜きの補助になります。
Q. 花粉症や風邪のときに飛行機に乗るのは危険ですか?
鼻づまりがあると耳の圧調整がうまくできず、リスクが高まります。
Q. 飛行機の気圧は地上とどのくらい違うのですか?
機内は標高約2000~2500m相当の気圧になり、中耳に急な圧がかかりやすくなります。
Q. 離陸と着陸、どちらが耳に負担が大きいですか?
着陸時の気圧低下時に耳への圧が強くなり、症状が出やすいとされています。
まとめ
航空性中耳炎は飛行機の離着陸時に起こる中耳の障害で、耳の痛みや詰まり感が主な症状です。
鼻の疾患があると発症しやすいため、搭乗前の点鼻薬や耳抜きの工夫が予防に効果的です。
繰り返す方や強い痛みがある方は耳鼻科での診察をおすすめします。
参考文献
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会『中耳炎診療ガイドライン2023』
- 日本航空医療学会『航空性中耳炎に関する臨床的研究』
- 小児耳鼻咽喉科Q&A(南山堂)
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. 中耳炎診療ガイドライン2023. 金原出版, 2023.
- 三浦裕正, 他. 「航空性中耳炎に対する予防的耳管通気の有効性」. 日本航空医療学会雑誌, 2018; 14(1): 11-16.
- 飯田敬二, 他. 「航空性中耳炎の臨床的検討」. 耳鼻咽喉科臨床, 2004; 97(6): 457-462.
- Shupak A, Doweck I, Gordon CR. "Otologic and vestibular symptoms during flight: a study of airline crew members." Aviation, Space, and Environmental Medicine, 2000; 71(7): 675-679.
- Bluestone CD, Klein JO. Otitis Media in Infants and Children, 4th ed. W.B. Saunders, 2007.
- Sade J, Luntz M. "Pressure regulation in the middle ear." Otolaryngologic Clinics of North America, 1996; 29(3): 435-456.
