良性発作性頭位めまい症(BPPV)
朝起きた瞬間や寝返りを打った瞬間、「天井がぐるぐる回る」ような激しいめまいを経験したことはありませんか?
それは良性発作性頭位めまい症(BPPV)かもしれません。
BPPV は内耳前庭の耳石(炭酸カルシウム結晶)が本来の位置からはがれ、三半規管内で異常に動くことで発症します。命に関わる病気ではありませんが、日常生活に大きな支障を来すため、正しい知識・早期診断・適切なリハビリが回復と再発防止の鍵を握ります。特に中高年女性に多く、骨粗しょう症や長期臥床、頭部外傷後などが誘因となるケースも報告されています。
BPPV の原因とメカニズム
耳石が三半規管に入るしくみ 内耳の前庭には重力・直線加速度を感知する耳石器(卵形嚢・球形嚢)が存在し、その表面には微小な耳石が載っています。耳石は通常ゼラチン層に固定されていますが、何らかの要因で剝離し、主として後半規管へ迷入します。頭位変換時に浮遊耳石が内リンパ液を撹拌し、脳に「動いていないのに動いた」という誤情報を送り、数秒〜1 分前後の回転性めまいと眼振を引き起こします。
誘因・危険因子
- 骨粗しょう症・ビタミン D 欠乏などの骨代謝異常(加齢・更年期を含む)
- 軽度の頭部外傷・スポーツ外傷
- 長期臥床や宇宙飛行など無荷重状態
- 反復する中耳炎・前庭神経炎の既往
- 片頭痛・メニエール病の併存
などで剝離しやすくなります。浮遊耳石は主として 後半規管 に迷入し、頭位変換時に内リンパ液を撹拌、脳に「動いていないのに動いた」という誤情報を送り数秒~1 分前後の回転性めまいと眼振を引き起こします。BPPV の 約 90 %が後半規管型、残りが水平半規管型・前半規管型です。水平半規管型は“寝返り後にゆっくり回る天井”を訴えることが多く、悪化・難治例の 5~10 %を占めるとされます。
主な症状と臨床像
- 寝返り・起き上がり・うがい・上を向く動作で誘発される 5~60 秒の回転性めまい
- 吐き気・嘔吐を伴うことがある
- 平衡感覚の低下による不安感・浮遊感
- 耳鳴り・難聴は通常伴わない(伴えばメニエール病など他疾患を疑う)
- めまい発作の合間は比較的症状が軽い
診断方法
- 詳細な問診・誘発動作の確認
- 頭位変換時眼振検査
- 聴力検査
- 温度眼振検査・頭部 MRI/CT で中枢性めまい・小脳梗塞・橋小脳角部腫瘍などを除外(当院では施行しておりません)
他疾患との鑑別ポイント
疾患 | 主徴候・持続時間 | 耳症状 |
---|---|---|
メニエール病 | 20 分~数時間の回転性めまい | 難聴・耳鳴り・耳閉感 |
前庭神経炎 | 数日続く激しいめまい | なし |
小脳梗塞 | 数時間~持続性めまい | △ |
起立性低血圧 | 立位直後の一過性ふらつき | なし |
BPPV の治療
1. 浮遊耳石置換法
耳石を本来の位置へ戻し、めまいを即座に改善する第一選択です。
2. 薬物療法(補助的)
- 抗めまい薬
- 制吐薬
- 抗不安薬
日常生活アドバイスと再発予防
- 朝はベッド柵に手を添え、ゆっくり頭を起こす
- 就寝前後のストレッチ・前庭体操で三半規管リンパ流を促す
- 骨粗しょう症対策:適度な日光浴・カルシウム+ビタミン D 摂取
- 長期臥床やデスクワーク中心の人は 30 分に 1 度 軽い頭位変換を
よくある質問(FAQ)
Q. 自然軽快はどれくらいで起きますか?
A. 後半規管型の約 50%が 3 週間以内に自然寛解。ただし再発率が 1年以内再発率が15〜20 %、5年再発率が50%と高いため定期的なめまい体操が推奨されます。
Q. めまい発作中に救急車を呼ぶ目安は?
A. ろれつ障害・半身脱力・激しい頭痛・持続する黒視野など脳卒中症状を伴う場合は直ちに救急要請してください。
Q. 耳石体操を自己流で行ってよい?
A. 誤った方向へ急激に動かすと悪化や頸椎症を招くことがあります。初回は必ず医師の指導を受けましょう。
Q. 仕事や運転はいつ再開できる?
A. 発作が収まり、頭位変換で眼振が誘発されなくなれば再開可。高所作業・重機操作は再発チェック後に。
Q. めまいで倒れることはありますか?
A. めまいで転倒するリスクはありますが、意識を失うことは通常ありません。ふらつきが強いときは安静にして、無理な動作を避けましょう。
Q. 耳鳴りや難聴がある場合はBPPVではないのですか?
A. BPPVでは通常、耳鳴りや難聴は伴いません。これらの症状がある場合はメニエール病など他の疾患を疑いますので、耳鼻科での精密検査を受けましょう。
Q. 一度治ってもまたBPPVになりますか?
A. はい、再発することがあります。耳石の性質や生活習慣が関係しており、予防体操が効果的です。
Q. 寝る向きでBPPVは悪化しますか?
A. はい、特定の向きで耳石が動きやすくなるため、寝返りの方向によってめまいが起こることがあります。
Q. 内服薬だけでBPPVは治りますか?
A. 薬は補助的な役割で、根本的な治療は耳石を戻す体操です。早期の運動療法が効果的です。
Q. 高齢者ではBPPVが長引くことがありますか?
はい、筋力や可動域の低下、骨粗しょう症の影響などで耳石が再沈着しやすく、繰り返すことがあります。日常の運動習慣やバランス訓練も予防に有効です。
Q. 両側性のBPPVはありますか?
A. まれですが存在します。両側の半規管に耳石が入り込んでいる場合、診断や治療が複雑になるため、専門的な評価が必要です。
まとめ|BPPV は早期診断と耳石置換法で改善
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は耳石迷入が原因の良性疾患です。的確な診断とリハビリにより多くの患者さんが短期間で日常生活へ復帰できます。再発を防ぐには生活習慣の見直しと前庭リハビリの継続が不可欠です。めまいが長引く・神経症状を伴う場合は、脳血管障害など重篤疾患の除外を含め、早めの耳鼻科受診をおすすめします。
参考文献
- 日本めまい平衡医学会ガイドライン「良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(改訂第2版)」2020
- Bhattacharyya N, et al. Clinical Practice Guideline: Benign Paroxysmal Positional Vertigo (Update). Otolaryngol Head Neck Surg. 2017
- Fife TD, et al. Practice parameter: therapies for benign paroxysmal positional vertigo (evidence-based review). 2008
- von Brevern M, et al. “Benign paroxysmal positional vertigo: diagnostic criteria.” J Vestib Res 2015
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「めまい」
- 日本耳鼻咽喉科学会 一般向け解説「良性発作性頭位めまい症」